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2013年5月 1日 (水)

草枕

知に働けば角が立つ、情に竿さしゃ流される、意地を通すは窮屈だ。とかくこの世は住みにくい。と始まるこの随想は歯切れがいい。文語体で、漢字もむつかしいが論理は明快で読んでいて気持ちがいい。過去はいつの間にか浄化され、その時々の苦労は皆忘れてしまうと言った人間の特性を軽快に論じている。詩歌や絵画は俗界を超越したものであり、物事の本質なる美や真実を引き出せるのが芸術家であると論ずる。西洋と東洋の詩歌の比較も面白い。茶碗や書に対する好みも書かれている。女性論もある。それはあっさりしている。洒脱一辺倒かというとそうではなく、適度に俗なことも書いている。最後の部分の文明批判は特異な感じがする。これから戦地に赴く久一さんが乗る汽車は怪物のように描かれている。確かに自然の中の人間と汽車の中の人間を比較すれば、汽車にのっている人間はそうでない人間の何十倍もの力を持つ。そして容赦なく前へ前へと押し進める。文明は人を追い立て、人を人でなくしてしまうと批判している。この作品は漱石30歳のころのものだということであるが、漱石の鋭さを明快に示している。

夏目漱石

青空文庫

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